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アクセシビリティ設計に関する記録

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字幕のルールづくり

字幕のルールづくり

KAAT神奈川芸術劇場「ジャングル」の日本語字幕を担当しました。今回は、この作品の字幕をどのような考え方でつくったのかを書いてみます。テキスト字幕に取り組む方にとって、何かのヒントになれば幸いです。

今回の字幕は、テキストだけで表示するものです。私がこれまで取り組んできたアニメーション字幕とは違い、音の情報もすべてテキストだけで表現します。文字だけという制約のなかで、演劇ならではの効果音や環境音、生演奏の音楽をどう伝えるか。私が大切にしたのは、一貫したルールをつくり、それに則って表示することでした。音の情報を字幕として表示する目的は、これまでもお伝えしてきたとおり「想像支援」です。

台本の外にある手がかり
ルールづくりの出発点は台本です。ただ、台本からわかるのはセリフとト書きが中心で、その音が生演奏なのか録音なのか、どんな意図で鳴るのかまではわかりません。今回は、演出家と音楽担当の打ち合わせメモや、音響スタッフのきっかけシートも参照させていただきました。音の種類やタイミング、演出の意図を知ることができ、表記を決めるうえでとても大きな手がかりになりました。

ひと目で区別できる表示
字幕を読む人の立場に立つと、表示の形が決まっていたほうが、セリフなのか音なのかがひと目で伝わります。そこで、話者や音の種類ごとに次のような書き方を決めました。

話者 【話者名】
書面の読み上げ 【話者名(読み上げ)】
複数人の発話 【複数】
効果音 [○○の音] 例:[冷たい風の音][銃声]
環境音 [○○] 例:[日常のざわめき][遠くの讃美歌]
集団の声 [○○の声] 例:[歓声]
音楽・演奏 [♪ ○○] 例:[♪ 力強いドラム音]
歌い手がわかる歌 [♪ 人物が歌う○○] 例:[♪ ヘレンが歌う祈りの歌]

効果音はできるだけ短くしました。短い語は[銃声]のように名詞だけで示します。演劇では、音が季節や時間、場所を伝える役割を担うことがよくあります。環境音は、その場の情景が浮かぶ言葉を選びました。

外国語のセリフ
この作品には、舞台上で外国語のセリフが話される場面があります。台本ではそうしたセリフも日本語で書かれていますが、聞こえる観客は外国語をそのまま聞くことになり、内容まではわかりません。そのため、字幕でも日本語のセリフは表示しません。代わりに、(フランス語で話す)のように何語で話しているかだけを示し、聞こえる観客と同じ条件にしています。一方で、「ノー」のような短い言葉や人の名前は、言語を知らなくても音として伝わります。こうしたものは聞こえたとおりに表示しました。

【守衛】(フランス語で話す)
【守衛】Non

何を出すか
本作はセリフが多く、上演時間も3時間15分と長い作品です。そのため、セリフ以外の文字情報は出しすぎないよう心がけました。

理由の一つは、字幕を読むことで精一杯になるのではなく、少しでも顔を上げて芝居を見てほしいからです。もう一つは、私がつくる字幕の目的が、情報保障よりも想像支援にあるからです。情報保障の観点に立てば、聞こえた音はできるだけ文字にする、という考え方もあると思います。しかし想像支援の観点では、その音が舞台の上で何を担っているかが判断の基準になります。

たとえば銃声です。舞台上の仕草だけでは、本当に弾丸が発射されたのかまではわかりません。それを効果音が伝えているのであれば、字幕でも伝える必要があります。一方で、雨が降り続いている場面で[雨の音]をずっと表示する必要はないと考えます。その音が天候や場面の状況を示しているなら、降り始めに一度伝えれば十分です。

どう書くか
音を字幕にするとき、聞こえた音を情緒豊かな言葉で、しかも短く言い表したいと考える方は多いかもしれません。けれども私が大切にしたいのは、音をうまく言い表すことよりも、その場面をどう想像してもらうかです。

今回の字幕づくりでたどり着いたのが「物語のなかでの役割が伝わる言葉を優先する」という考え方でした。その音楽が場面をどう演出しているのかを言葉にする、と言いかえてもよいかもしれません。字幕の言葉だけで場面を説明しきるのではなく、字幕の文字と前後の芝居がセットになって、観客の想像が立ち上がる。そうした関係を目指しています。

いちばん悩んだのは宗教的な音楽です。礼拝の時を告げる呼びかけやコーランの朗唱は、名称をそのまま表示しても、なじみの薄い人には情景が浮かびにくいかもしれません。そこで[♪ 祈りへの呼びかけ][♪ 祈りの歌]のように、その音楽が場面のなかで何であるかが伝わる言葉を選びました。

反対に、オープニングの音楽は、まだ物語が始まっていないため、[♪ 力強いドラム音]と音そのものを示しました。場面転換の音楽も同じ考え方で、意味を持たせない言葉を選んでいます。

私が作る字幕は、聞こえた音をすべて文字に置き換えるものではありません。何を出し、何を出さないか。どんな言葉で、何を想像してもらうか。その判断を作品ごとに積み重ね、一貫したルールにしていくことが、字幕のデザインだと考えています。テキストだけの字幕でも、想像を支えることはできます。この記事が、字幕づくりに取り組む方の手がかりになればうれしいです。

公演情報
KAAT×阿佐ヶ谷スパイダース『ジャングル』
字幕機器の貸出:10月24日(土)、25日(日)
※要事前申込・数量限定。詳しくは公演ページをご覧ください。