タッチツアーは誰が案内するのか
まつもと市民芸術館プロデュース 木ノ下歌舞伎「心中天の網島 アクセシビリティ版」の伊丹公演では、ツアー公演で標準的に用意されているアクセシビリティサービスに加えて、劇場独自の企画としてタッチツアーが開催される予定です。
タッチツアーとは、視覚に障害のある観客が舞台上のセットや小道具、衣装に実際に手で触れながら、作品世界を思い描くための説明を聞く機会です。実施した経験のある劇場や実演団体はまだ多くありません。そのため、どのように進めればよいのか、戸惑う声もよく耳にします。
なかでも誤解されやすいのが「誰が案内するのか」という点です。タッチツアーは企画者や制作スタッフが案内するものではありません。なかには、アクセシビリティの専門家や音声ガイドスタッフが案内すべきだと考えている方もいますが、それも本来の形とは異なります。実際に案内役を担うのは、カンパニー自身です。
舞台上の安全を最もよく把握し、適切に誘導できるのは舞台監督です。そのため、セットに触れてもらう場面では、舞台監督が案内役を務めます。衣装は衣装担当者、小道具は舞台スタッフが説明を担当します。それぞれの専門家だからこそ、扱い方や見どころを的確に伝えられますし、万が一、タッチツアー中に衣装が少しほつれたり、小道具に緩みが出たりしても、その場で気づき、開演までに直すことができます。
この仕組みを知らないまま進めようとすると、制作スタッフが舞台スタッフから扱い方を教わって代わりに案内する、という形になりがちです。そうなると触れられるものの範囲は一気に狭まり、結果として「ほとんどなにも触れないタッチツアー」になってしまいます。
もちろん制作スタッフに役割がないわけではありません。全体の進行役やタイムキーパーとして場を支えること、そして本番前にカンパニーへ視覚障害のある方について知ってもらう説明や研修の機会を用意すること、これらは制作スタッフだからこそできる大切な仕事です。
これまでさまざまな現場に関わってきましたが、案内役を頼んで嫌がったカンパニーには一度も出会ったことがありません。むしろ「カンパニーには頼めない」という思い込みを抱えているのは、制作スタッフの側であることがほとんどです。
この思い込みを手放すことができれば、タッチツアーはもっと多くの公演で実現できるはずです。そうした現場が一つでも増えていくことを願っています。
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